日本循環器学会の統計によると、2022年の日本における心筋梗塞の患者数は7万8千人に上ります。心筋梗塞で死亡する患者は年々減少傾向であり、今では死亡率が10%を下回っています。
しかし、心筋梗塞の病歴を持つ方は、認知症を発症する可能性が高くなることが最近の研究で明らかになりました。この記事では、心筋梗塞と認知症の関係性について解説します。
心筋梗塞って何?
心筋梗塞(MI)は、「心臓発作」とも知られている代表的な心疾患の一つです。心臓への血液供給が急に遮断されることにより、心臓の筋肉が酸素供給を失い、その結果、その部分の心筋が壊死する状態を指します。
この血液供給の遮断は、主に冠動脈(心臓へ血液を供給する動脈)内に形成された血栓(血の塊)によって引き起こされます。
心筋梗塞の主な症状は、胸部の圧迫感、痛み(特に胸骨の裏側)、呼吸困難、冷や汗、吐き気、そして意識喪失などがあります。
症状は通常、15分~数時間続くと言われており、救急処置が行われなかった場合、死に至る可能性が高い病気だと言われています。
症状は人によって様々であり、心臓のどの部分に影響を受けているかにより異なるとされています。
認知機能と認知症の関係
認知機能は、私たちが情報を理解し、記憶し、判断し、そしてそれを使って日常生活を遂行するために必要な一連の脳の機能を指します。
これには記憶、注意力、言語能力、視覚空間認識、問題解決、および実行機能などが含まれます。
認知症は、これらの認知機能の低下により日常生活に支障をきたす病気の総称です。
症状として、中核症状(記憶障害、実行機能障害など)、行動・心理症状(妄想、人格変化など)があります。
認知症には、アルツハイマー型認知症、レビ-小体型認知症、前頭側頭葉型認知症などいくつか種類があり、根本的な治療法は存在しません。
詳しくは以下の記事をご覧ください:
研究内容
新たに公開された6つの長期的な米国の研究では、大規模かつ比較的多様な集団(合計で30,465人、平均年齢64歳)を調査対象としました。
研究目的は、心筋梗塞が認知機能に与える影響を確認し具体化すること、そして人種と性別の影響を特に検討することでした。
研究開始時に、全参加者に対して心筋梗塞、認知症、脳卒中の既往歴を調査し、これらの疾患の既往歴がある人は研究から除外されました。
参加者のうち56%は女性でした。大多数は白人(69%)、29%が黒人、8%がヒスパニックでした。
追跡調査は4.9年から19.7年間(中央値6.4年)行われ、その間に1,033人の参加者が少なくとも一度は心筋梗塞を経験しました。
残りの29,432人は心筋梗塞の発症はありませんでした。研究者たちは、全参加者に対して研究開始時に一回以上の認知機能評価を行い、心筋梗塞発症後には追加の評価を行いました。
認知機能を判断するため、研究者たちは以下の項目を評価しました:
- 実行機能:問題解決、意思決定、マルチタスク、時間管理等
- 情報の処理速度
- 記憶力
- 視空間能力
研究結果
結果として、全ての参加者は追跡調査中に認知機能の低下が見られました。
しかし、研究者たちは心筋梗塞を経験した人々の方が、経験していない人々に比べて、全般的な認知機能、記憶力、および実行機能の全ての指標で認知機能の低下が速いことを発見しました。
研究者たちは、全体のグループで、心筋梗塞後の一般的な認知機能、記憶力、および意思決定能力がすぐに大幅に低下することはなく、時間の経過とともに顕著に速い速度で低下したことを発見しました。
二度目の心筋梗塞を経験した人々については、全体的な低下率は変わらず、二度目の心筋梗塞直後に実行機能の急激な低下が見られました。
また、研究者たちは心筋梗塞の影響が人種や性別によって違うことも見つけました。黒人は心筋梗塞後に全般的な認知機能に急激な変化を示す可能性が高かく、その後の低下は遅くなり、全体的には白人よりも低かったとされています。
女性は認知機能の低下速度は遅く、実行機能の低下は男性よりも速かったと結論付けられています。
心筋梗塞が認知機能を低下させる理由
現段階では、心筋梗塞が認知機能を低下させる原因はわかっておらず、今後さらなる研究が必要になると研究者たちは強調しています。
以前の大規模な心筋梗塞生存者の集団を対象とした研究では、心筋梗塞が脳血管性認知症のリスクを高めることが関連付けられており、特に追跡調査中に脳卒中を発症した患者に多く見られました。
出典:Higher Risk of Vascular Dementia in Myocardial Infarction Survivors
今回説明した最新の研究では、心筋梗塞後の年間認知機能の低下速度が加速し、脳卒中との関係性は示されていません。
研究者たちは、長期的な脳血管疾患や心臓と血管が損傷している状態が認知機能低下の原因だという可能性があると捉えています。
心筋梗塞と脳血管疾患は、両方とも動脈硬化(血管壁に脂肪質が堆積する現象)により、血管が細くなったり、血管が完全に塞がったりすることによって発症します。
その炎症が慢性的に血流の流れを悪くし、アルツハイマー型認知症や血管性認知症の発症リスクを加速させる可能性があると示されています。
心筋梗塞を予防するには
心筋梗塞は、血圧を維持することで予防できると言われています。
食事に気を付ける
低脂肪、低塩分、高繊維の食事は、コレステロール値を低下させ、心臓病の予防に効果的だと言われています。
果物、野菜、全粒穀物、魚、豆類などを含む食事が推奨されます。また、アルコールの過度な摂取は心筋梗塞になるリスクを高めるため、適量に制限しましょう。
タバコを止める
喫煙は心筋梗塞のリスクを大幅に高めると考えられています。喫煙を止めることは心筋梗塞の予防に最も効果的な手段の1つです。
定期的に運動をする
身体活動は、血圧を下げ、心臓を強くするのに効果的です。
一般的には、週に最低150分の中レベルの有酸素運動(ウォーキング、ジョギング等)、または週に75分の高レベルの有酸素運動(ランニング、水泳等)が推奨されます。
生活リズムを整える
規則的な生活習慣は心筋梗塞の予防につながります。毎日同じ時間に食事し、7〜8時間ぐらいの睡眠を日常的にとるようにしましょう。
定期的に健康診断をする
血圧、コレステロール、血糖値などの健康指標を定期的にチェックすることで、心筋梗塞になるリスクを早期に特定し、管理することが可能になります。
最後に
心筋梗塞は一刻を争う非常に危険な病気です。認知症と同様に、心筋梗塞も早期の対策や予防をすることが発症を防ぐカギとなります。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
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