認知症の治療法は薬物療法の他に、薬に頼らない非薬物療法があります。
非薬物療法には、心理療法やリハビリテーション、音楽療法など様々な手法が提唱されています。
その中でも、「光療法」という新たな非薬物療法が、認知機能のの改善に一定の効果があったことが最新の研究で報告されました。
この記事では、認知症の光療法とその関係が明らかになった最新の研究について解説します。
光療法とは
光療法(光線療法)は、明るい光を用いた治療法です。患者の状態によって、光の種類、波長、色が異なります。
現在、紫外線(UV)を使用した光療法が最も一般的で、主に皮膚疾患(湿疹、乾癬、白斑病)の治療に使われています。紫外線は、太陽から出る同じ種類の光です。
皮膚疾患に加えて、光療法は季節性感情障害(SAD)や睡眠障害の治療にも使用されてきました。
また、科学者たちは、リウマチ性関節炎、特定の癌、細菌感染症の潜在的な治療法として光療法を研究しています。
光療法が認知症患者に与える影響については、以前から研究が行われてきました。
2022年の研究では、光療法の介入が認知症患者の認知能力の改善と関連していることが明らかにされました。
また、アイカーン医科大学の研究者たちは、特定の光療法の組み合わせがアルツハイマー型認知症の症状の進行を遅らせることが可能かという点について調査する研究が現在も進行しています。
出典:Phototherapy for Cognitive Function in Patients With Dementia: A Systematic Review and Meta-Analysis
認知症とは
認知症は、脳のダメージによって引き起こされる認知機能の低下が、日常生活に支障をきたす病態です。症状は、中核症状(基本的な認知症の症状)と行動・心理症状に分類され、個人差があるとされています。
認知症の種類は様々あり、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体認知症、が主に挙げられます。
認知症は根本的な治療法がなく、症状を緩和する治療療法が行われるため、適切な対策を心がける必要があるとされています。
最新の研究:光療法が認知症に効果的?
2022年の研究では、北京大学の研究者たちが認知症を持つ人々が光療法の治療を受けている12の臨床試験の公表結果をメタ分析しました。
全体の研究には、認知症を持つ766人のデータが分析され、その中の426人は光療法を受けるグループ、他の340人は光治療を受けないグループに分類されました。
この研究の目的は、ミニメンタルステート試験(MMSE)のスコアの変化によって測定された認知機能、行動・心理症状(BPSD)、睡眠に光療法がどのように影響を及ぼすか調査することです。
ミニメンタルステート試験(MMSE)について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
認知症テスト「MMSE(ミニメンタルステート検査)」とは?長谷川式との違いは?特徴と評価方法(カットオフ値)についても解説
研究の結果、研究者たちは光療法の治療が、認知症の参加者のMMSEスコアと認知機能を大幅に改善したことが報告されています。
一方、行動・心理症状(BPSD)と睡眠のスコアに大きな変化はなかったともされています。
出典:Phototherapy improves cognitive function in dementia: A systematic review and meta-analysis
光療法が認知症に与える効果
現段階では、光療法が認知症に効果的な理由はまだ明確には示されていません。しかし、一部の研究者たちは光療法が脳に影響を与え、それが認知機能にプラスの影響をもたらす可能性があると示唆しています。
体内時計の調整
光療法が認知機能に対する効果の一部は、体内時計を調整する能力に関連していると考えられています。
体内時計は、日中の覚醒と夜間の睡眠を含む日々の活動パターンを制御しています。光療法は体内時計を正常化し、認知機能を改善する可能性があるとされています。
睡眠の改善
光療法は睡眠の質を改善し、結果として認知機能を高める可能性があります。睡眠は脳の回復とメンテナンスに重要であり、良好な睡眠は記憶、注意力、学習などの認知能力の向上につながる可能性があるとされています。
神経伝達物質の調整
光療法は脳内の特定の神経伝達物質のレベルを調整し、それが認知機能と気分に影響を与える可能性があります。
これらは研究者が推測した理由であり、光療法が認知症にどのように作用するかについては、さらなる研究が必要です。
光療法が認知症の治療にどのように役立つか、そしてどのように最大限に利用できるかを理解するために、一部の科学者は研究を継続しているとのことです。
光療法のやり方
光療法の具体的な実施方法は、治療対象の疾患や患者の状態により異なりますが、一般的には特定の波長の光を体に当てることです。
光療法は、認知症の他の療法と並行して行えば、さらなる症状の改善を期待できるとされています。
一人一人の認知症患者の適切な光の種類、治療の期間、頻度などの要素はまだ研究段階であり、明確な答えはありません。
最適な臨床適用条件を探るためにさらなる研究が必要になるとされています。
光療法の副作用
光療法は非侵襲的、つまり体に負担をかけにくい非薬物療法だといわれています。そのため、副作用は一般的には少なく、安易に取り入れやすい療法だと考えられます。
しかしながら、光療法には稀に次のような副作用が報告されています。
眼の刺激
光療法は一部の人にとって眼の刺激を引き起こすことがあるようです。
これは、治療中に直接眼に光が当たることによるもので、症状は光が強すぎる場合や治療時間が長い場合に特に顕著になることがあるとされています。
皮膚の反応
紫外線を用いた光療法は、一部の人にとって皮膚の赤み、かゆみ、乾燥、炎症を引き起こすことがあるとされています。
一方、これらの症状は通常一時的であり、治療を中止すると改善されることが多いようです。
睡眠への影響
光療法は特定の時間に施行されるといわれています。しかし、不適切なタイミングでの施行は生体リズムを乱し、睡眠に影響を及ぼす可能性があるとされています。
皮膚がんのリスク
長期間にわたる紫外線を用いた光療法は、皮膚がんのリスクを高める可能性があります。したがって、この治療を長期にわたって行う場合は、定期的な皮膚検査が必要になることがあるとされています。
しかし、副作用の確認には適切に設計された研究が必要です。これには、使用する光療法装置の種類、治療期間、頻度、時間など、最も効果的な臨床導入条件を探ることが含まれます。
まとめ
光療法は、認知症の治療における有望な非薬物的介入法としての可能性を示しています。
しかし、その効果や治療法の具体的な方法、副作用などについては、さらに詳細な研究が必要とされています。
一方、治療の有効性と費用対効果を考慮し、良好な結果が確認されれば、臨床の場において、推奨される一般的な介入法となる可能性が示唆されています。