前頭側頭型認知症は、その名の通り、人間の脳の前頭葉と側頭葉が影響を受ける種類の認知症です。
多くの人々はこの病状を聞いたことがないかもしれませんが、前頭側頭型認知症はアルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症・脳血管性認知症と並ぶ4大認知症の1つであり、その中で唯一『指定難病』に認定されています。
しかし、その症状や進行は非常に個別性があり、診断や対応が困難な一面を持つため、患者本人や家族の間でも混乱と不安が生じることがあります。
本記事では、前頭側頭型認知症の症状と進行、さらには平均余命について説明し、患者やその家族が直面するであろう課題や対策を紹介します。
さらに、日本における指定難病医療費助成制度の申請方法についても具体的に解説します。
前頭側頭型認知症とは
前頭側頭型認知症とは、脳の前頭葉と側頭葉に障害が起こることで引き起こされる認知症の一種です。
この認知症は、4大認知症の一つであり、記憶障害よりも性格や行動の変化が目立つ特徴があるとされています。
例えば、無関心や無気力、衝動的な行動、言葉の減少などが見られます。
前頭側頭型認知症は、40歳代から60歳代に発症することが多く、他の認知症と比べて若い時期から発症する傾向があるとされています。
以下に前頭側頭型認知症以外の4大認知症に関する記事を紹介しますので、ぜひご覧ください。
・アルツハイマー型認知症
・レビー小体型認知症
・脳血管性認知症
前頭側頭型認知症の原因
前頭側頭型認知症の原因はまだ特定されていませんが、「タウたんぱく質」や「TDP-43タンパク質」などの異常なタンパク質が脳内に蓄積され、前頭葉と側頭葉の萎縮が起こることが関係していると考えられています 。
これらのタンパク質は正常には神経細胞の機能や構造に必要なものですが、何らかの原因で変性したり凝集したりすると、神経細胞の死や神経伝達の障害を引き起こすとされています。
前頭葉と側頭葉は、思考や感情、判断、言語などに関わる重要な部位です。
そのため、これらの部位が萎縮すると、行動や人格の変化、言語障害などが現れます 。
前頭側頭型認知症の症状
前頭側頭型認知症は思考、判断の中枢である前頭葉が萎縮するため、人格変化が顕著に現れやすいとされています。
また、前頭側頭型認知症の症状は大きく分けて二つの領域、すなわち行動・性格の変化と言語能力の低下から現れます。どちらの症状が先に出るか、またその程度は個々の患者によります。
以下で初期・中期・末期にかけて症状がどのように変化していくのかを見ていきましょう。
初期症状
常同・強迫行動をとる
常同行動とは同じ行動や習慣を何度も繰り返すことを指します。
例えば、何度も手を洗う、同じ服を何度も着るなどがあります。
共感性の喪失、怒りやすくなる
他人の感情や立場を理解する能力が低下し、また、今まで温厚な性格だった人が怒りやいらだちを見せるようになります。
食行動が変化する
食事に関連した異常行動が見られる。食べ物の好みが変わる、過度に食べる、または特定の食べ物しか食べないなどです。
抑制ができなくなる・反社会的な行動をとる
自分の行動を抑制する能力が低下し、社会的な規範に反する行動をとることがあります。
無礼な言動、万引き、暴力行為などがこれに該当します。
中期症状
言語障害
話すスピードが低下したり、他人が言ったことを無意識に反復する(反響言語)、言いたいことと違う単語を使ってしまう(錯語)、知っているはずの単語を思い出せない(健忘失語)が見られます。
自発性の低下
自発的な行動や思考が減少し、何事に対してもやる気がでなくなる無気力や興味喪失がみられます。
末期症状
精神的・身体的衰弱
徐々に筋肉が硬くなり、関節の動きも悪化していき、食行動の変化による体重の減少も起こります。最終的には、寝たきりの状態になる可能性があります。
また、前頭葉と側頭葉の萎縮がさらに進行することで、思考力や記憶力が大幅に低下し、言葉を発すること自体が困難になります。
前頭側頭型認知症の平均余命と進行速度
平均余命
前頭側頭型認知症の平均余命は、発症年齢、全体的な健康状態、合併症の有無など、様々な要素により影響を受けます。
最初の症状が現れてから亡くなるまでの期間は、一般的に8〜10年とされていますが、これはあくまで一般的な数値であり、実際には2〜20年程度の幅があるとも言われています。
前頭側頭型認知症がいつ発症したのか分からず、いつのまにか進行してしまっている場合があるため、平均余命にばらつきが出てきます。
進行速度
前頭側頭型認知症の進行速度は、患者さんによって大きく異なります。
一部の患者さんでは、症状の進行が非常にゆっくりと進行し、何年にもわたって病状が悪化するのに対して、他の患者さんでは数年のうちに急速に症状が進行することがあります
。通常、病気の進行とともに、言語能力の低下、運動機能の障害、精神的な変化がますます顕著になります。
以上のことから、前頭側頭型認知症の診断を受けた方やご家族が、適切なサポートや介護計画を立てるためには、医療専門家と密にコミュニケーションを取ることが重要であると言えます。
前頭側頭型認知症の診断方法
認知症を診てもらうためには何科に行けばいいのか分からない方も多いのではないのでしょうか?
ここでは、認知症の疑いがある場合に何科にかかるべきなのかに加えて、医療機関で実施される診断方法についてご紹介します。
何科に行けばいいのか?
前頭側頭型認知症は、神経や精神の疾患を扱う 神経内科 や 精神科 で診断されます。
ただし、専門医や専門機関はまだ少ないため、近くにない場合は、もの忘れ外来や認知症疾患医療センターなどを受診するとよいでしょう。
また、お近くのかかりつけ医を受診することで、専門の医療機関を紹介してもらうこともできます。
診断方法と診断基準
前頭側頭型認知症の診断方法は、主に以下の2つです。
問診
本人や家族に普段の様子や行動について聞き、前頭側頭型認知症に特徴的な症状があるかを医師が判断します。
脳画像検査
CT検査やMRI検査などで脳の内部を撮影し、脳のどこにどの程度の損傷があるかを調べます。前頭側頭型認知症では、脳の前頭葉や側頭葉が著しく萎縮していることが見られます。
また、発症年齢も重要な手がかりであり、前頭側頭型認知症は 65歳未満の非高齢者の発症率が高いことが特徴です。
前頭側頭型認知症の治療
前頭側頭型認知症に対する特定の治療法は現時点で開発されていませんが、一部の症状は薬物療法と非薬物療法によって管理することができます。
薬物治療
現在、前頭側頭型認知症に対する有効な薬物治療はありませんが、症状に応じて抗うつ薬や抗不安薬、抗精神病薬などを用いることがあります。
これらの薬は、前頭側頭型認知症を根本的に治すものではなく、あくまで症状を和らげるものです。
また、副作用や相互作用に注意しなければなりません。薬物治療は、必ず医師の指示に従って行ってください。
非薬物治療
前頭側頭型認知症に対する非薬物治療としては、日常生活の支援や介護、認知機能訓練や言語療法、心理的支援などがあります。
日常生活の支援や介護では、患者さんの安全や快適さを確保するために、生活環境や生活習慣を整えたり、適切な刺激や活動を提供したりします。
認知機能訓練や言語療法では、患者さんのまだ持っている能力を活かして、記憶や注意、判断などの認知機能や言語能力を向上させるように努めます。
心理的支援では、患者さんや家族に対して、前頭側頭型認知症の特徴や進行についての情報提供や相談、カウンセリングなどを行います。
非薬物治療は、医師や看護師、介護士、作業療法士、言語聴覚士などの専門家と協力して行うことが重要です。
前頭側頭型認知症の難病医療費助成制度について
前頭側頭型認知症は4大認知症の中で唯一「指定難病」に認定されています。
指定難病である前頭側頭型認知症は、国の定める医療費助成制度の対象となっており、療養時の経済的負担を軽減することができます。
この医療費助成制度について以下で解説していきます。
指定難病とは
「難病」は、病状が重く、治療が長期間にわたる、または高額な医療費が必要とされる病気を指す用語です。
これには、発病率が低く、原因や治療法がまだ十分に解明されていない病気も含まれます。日本では、特定の難病については国からの補助を受けることができます。
指定難病とは、厚生労働省が定めた難病のうち、医療費助成の対象となる難病のことです。指定難病に該当するためには、「難病」の定義に加えて、「指定難病」の要件も満たす必要があります。指定難病に該当する場合、医療費助成制度を受けることができます。
この指定難病に該当する難病は現在338疾病あり、2015年に前頭側頭型認知症が「指定難病」として認定されました。
難病医療費助成制度の申請方法
具体的な難病医療費助成制度は以下の通りです。
①お住まいの都道府県の窓口へ手続き・必要書類の確認
最初にお住まいの都道府県の窓口で手続きの方法や必要書類を確認します。
市の保健所や健康福祉事務所の「保健予防課」や「健康増進課」などの窓口が担当窓口となっていることが多く、難病情報センターの『都道府県・指定都市担当窓口』からも確認することができます。
②難病指定医を受診・診断書を取得
申請に必要な診断書(臨床調査個人票)を取得するために、『難病指定医』を受診します。
③申請書の作成・提出
診断書(臨床調査個人票)を含む以下の必要書類を作成して、都道府県の窓口へ提出します。
・診断書(臨床調査個人票)
・申請書(指定難病医療費支給認定用)
・公的医療保険の被保険者証のコピー
・市町村民税の課税状況の確認書類
・世帯全員の住民票の写し
⑤指定難病医療受給者証の交付
審査が通ると、指定難病医療受給者証が交付されます。この指定難病医療受給者証により、医療費の自己負担額が軽減されます。
なお、具体的な申請方法や必要な書類は、都道府県や市区町村により異なる場合があるため、詳細は最寄りの役場や保健所に問い合わせてください。
指定難病医療費助成制度に関する詳細な情報や助成金額等に関しては難病情報センターのウェブサイトを確認してみてください。
参照:難病情報センター『指定難病患者への医療費助成制度のご案内』
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
まとめ
本記事では、前頭側頭型認知症の症状、平均余命、および難病申請の方法などについて解説してきました。
ここまでの内容を簡単にまとめてみます。
- 前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉と側頭葉に障害が起こる認知症の一種で、行動や性格の変化が目立つ。
- 前頭側頭型認知症は40歳代から60歳代に多く発症し、その原因は特定されていないが、異常なタンパク質の蓄積と脳部萎縮が関与しているとされる。
- 症状は行動・性格の変化と言語能力の低下で、症状の現れ方や程度は個々の患者による。
- 症状は初期では常同・強迫行動、共感性の喪失、食行動の変化、抑制能力の低下、中期では言語障害、自発性の低下、末期では精神的・身体的衰弱と進行する。
- 平均余命は8〜10年とされるが、実際には2〜20年程度の幅があり、進行速度も患者により異なる。
- 前頭側頭型認知症は、神経内科や精神科、もしくは認知症疾患医療センターなどで、問診や脳画像検査(CTやMRIなど)を用いて行われ、発症年齢も重要な要素となる。
- 特定の治療法はまだ開発されていませんが、薬物療法と非薬物療法によって一部の症状を管理することが可能とされている。
- 前頭側頭型認知症は日本で「指定難病」に認定されており、国の医療費助成制度の対象となっている。対象となるためには、各都道府県の窓口で手続きを行い、指定難病医の診断を受け、申請書を作成・提出する必要がある。