遺伝は、認知症の原因となる要素の一つです。
遺伝子は、私たちの体の機能や特徴を決定する情報が詰まったユニットで、親から子へ受け継がれます。
認知症の発症リスクに影響を与える遺伝子も存在し、それらの遺伝子を持っている人は、認知症になりやすい傾向があるとされています。
しかし、遺伝はあくまで一因であり、認知症には多くの要因が関与していることを理解することが重要です。
遺伝的要因に加えて、年齢、生活習慣、環境要因なども認知症の発症に影響を与えます。
したがって、遺伝的リスクだけでなく、これらの要因にも注目して認知症予防に取り組むことが求められます。
この記事では、認知症と遺伝の関係について詳しく解説し、遺伝的リスクを軽減する方法や、遺伝以外の要因にも対処できる予防策を提案していきます。
認知症の主なタイプと遺伝的要素
認知症にはいくつかのタイプがあり、それぞれ異なる原因や症状が特徴です。
遺伝的要素も、認知症のタイプによって異なります。
以下では、主な認知症のタイプとその遺伝的要素について解説します。
アルツハイマー病
アルツハイマー病は、認知症の中で最も一般的なタイプで、全体の約60-80%を占めます。
遺伝的要素が強く関与しており、特にAPOEε4遺伝子の存在がリスクを高めることが知られています。
また、希少ではありますが、遺伝性アルツハイマー病と呼ばれる、遺伝子変異によって引き起こされるアルツハイマー病も存在します。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、アルツハイマー病に次いで二番目に一般的な認知症で、全体の約10-25%を占めます。
遺伝的要素は、アルツハイマー病ほど明確ではありませんが、APOEε4遺伝子やGBA遺伝子の変異が関与することが示唆されています。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、若年性認知症の中で最も一般的なタイプで、認知症全体の約5%を占めます。
遺伝的要素が強く関与しており、一部の患者では遺伝子変異が確認されています。
主要な遺伝子変異は、MAPT遺伝子、GRN遺伝子、C9orf72遺伝子に関連しています。
これらの認知症のタイプごとに遺伝的要素が異なりますが、遺伝は認知症発症リスクを高める重要な因子であることが共通しています。
遺伝的リスクを理解し、適切な予防策をとることが認知症予防につながります。
認知症と遺伝子:重要な遺伝子とリスク
認知症の発症リスクに関わるいくつかの遺伝子が研究によって特定されています。
以下では、認知症と関連する主要な遺伝子とそれらがもたらすリスクについて解説します。
APOE遺伝子
APOE(アポリポプロテインE)遺伝子は、アルツハイマー病やレビー小体型認知症の発症リスクに大きく関与していることが知られています。
APOE遺伝子にはε2、ε3、ε4の3つの主要なタイプがあり、この中で2つ1組6パターンの遺伝子型を構成しています。
APOEε4はアルツハイマー病のリスクを高めることが報告されており、特に2つのε4アレル(対立遺伝子)を持つ人はリスクがさらに高まります。
ただし、他の生活習慣等の要因によりアルツハイマー病を発症することがあるので、APOEの遺伝子型だけで、将来のアルツハイマー病発症を「予測」することはできません。
遺伝子型 | リスク(倍) |
ε2/ε3 | 0.6倍 |
ε3/ε3 | 1.0倍 |
ε2/ε4、ε3/ε4 | 3.2倍 |
ε4/ε4 | 11.6倍 |
TREM2遺伝子
TREM2(トリガー・リーガンド受容体発現)遺伝子は、免疫系の働きに関与しており、特定の変異がアルツハイマー病のリスクを増加させることが研究で明らかになっています。
TREM2遺伝子の変異は、APOEε4よりはまれですが、その影響は顕著であり、アルツハイマー病発症のリスクを高めることが示されています。
その他の遺伝子とリスク
さらに、いくつかの遺伝子変異が認知症、特にアルツハイマー病のリスクと関連しています。これらには、ABCA7、CLU、CR1、PICALMなどの遺伝子が含まれます。
これらの遺伝子は、APOEε4やTREM2ほどリスクを高めないものの、認知症の発症に影響を与える可能性があります。
遺伝子による認知症のリスクは個人差がありますが、遺伝的要因を理解することで、自分や家族の認知症予防に役立てることができます。
遺伝的要因以外の認知症のリスクファクター
遺伝的要因は認知症のリスクに影響を与えますが、それだけが原因ではありません。
以下では、遺伝以外の要因で認知症のリスクが高まる可能性があるリスクファクターについて説明します。
年齢
年齢は認知症の最も大きなリスクファクターです。
65歳以上の高齢者の認知症のリスクは、5年ごとに約2倍に増加します。
しかし、若年者にも認知症が発症する可能性があるため、年齢だけでリスクを判断することはできません。
生活習慣
悪い生活習慣は認知症のリスクを高める可能性があります。
喫煙、過度のアルコール摂取、運動不足、肥満、高血圧、高コレステロール、糖尿病などは、認知症のリスクファクターとして知られています。
健康的な生活習慣を維持することで、リスクを軽減できる可能性があります。
環境要因
環境要因も認知症のリスクに影響を与えることがあります。
大気汚染、農薬、重金属などの有害物質に長期間曝露することで、脳の健康に悪影響を与える可能性があります。
また、社会的な孤立やストレスも、認知機能の低下に関与することが研究で示されています。
認知症の早期発見と重要性
両親や祖父母が認知症を患っていた経歴がある方の中には、「自分も認知症になるかもしれない」「認知症になったら治らないかも」と不安になっている方もいるかもしれません。
現在、認知症にならない方法や認知症を完治する方法はありません。
しかし、認知症は、早期に発見して適切な治療を施すことで、その進行を遅らせることが可能な病気であるとされています。
そして、早期発見には定期的にご自身の認知機能をチェックすることが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。