認知症は、高齢化社会を迎える現代において、多くの人々が抱える病気の一つです。
厚生労働省の推計によると、2040年には高齢者の約15%が認知症に罹ると推測されています。
そのため、認知症の予防対策として病気に関する知識を深め、適切な対策を講じることが重要です。
近年の研究では、職業によって認知症のリスクが高まる可能性や、逆にリスクが低減する可能性が示唆されています。
本記事では、科学的根拠に基づき、認知症になりやすい人の職業となりにくい人の職業について詳しく解説します。
出典:厚生労働省 老健局 認知症施策・地域介護推進課 「認知症施策について」
認知症とは
認知症は、認知機能の低下によって引き起こされる日常生活に支障をきたす病気の総称です。記憶力、判断力、言語能力、思考力などが認知機能として主に挙げられます。
認知症の種類としては、アルツハイマー型、脳血管型、レビー小体型など、多岐にわたる種類が挙げられます。
これらの病気は、脳内の異常な蓄積物や血管の損傷により、神経細胞の機能が低下することが原因だと考えられています。
認知症になりやすい人の特徴としては、高齢が最も大きな要因であるとされていますが、脳疾患、心疾患、高血圧、糖尿病等も関与していると考えられています。
近年の研究では、職業による影響も指摘され、特定の職業に従事している人は認知症のリスクが高まる可能性があると考えられています。
認知症になりやすい人の職業
認知症になりやすい人の職業に関する研究はまだ限られています。
一部の研究では、身体的な負担が大きい職業が認知症のリスクと関連する可能性が示唆されています。
ランセット医学雑誌に掲載された2023年の研究では、身体的負担が大きい仕事に従事する人々は、そうでない人々に比べて認知機能の低下リスクが高いことが示めされています。
この研究結果に基づき、認知症のリスクが高まる可能性がある具体的な職業を以下に挙げます。
身体的負担が大きい職業
身体的に負担の大きい仕事としては、建設業、製造業、サービス業などが挙げられます。
これらの職業では、重い物を運ぶ、長時間立ち続ける、体を曲げるなどの肉体労働が多く、身体的なストレスが高いとされています。
建設業
重い物を運ぶ、長時間立ち続ける、体を曲げるなどの肉体労働が多く、身体的なストレスが高い職業です。
例:建設工事の作業員、解体工事の作業員、鳶職、鉄筋工など
製造業
機械操作や重量物の取り扱いなど、肉体的な負担が大きい作業が求められます。
例:機械オペレーター、組立作業員、鋳造工、溶接工など
サービス業
長時間の立ち仕事や不規則な勤務時間が特徴で、身体的な疲労や睡眠障害を引き起こす可能性があります。
例:販売員、看護師、清掃員、警備員、配達員など
これらの職業では、身体的な負担だけでなく、過労や職場のストレスなど、複数の要因が重なることで、認知機能の低下につながる可能性が考えられています。
しかし、職業と認知症の関係についてはまだ十分に解明されておらず、今後の研究が期待されています。
認知症になりにくい人の職業
認知症になりにくい人の職業として、知的刺激が多い職業が挙げられます。
2021年の共同研究では、脳に刺激的な仕事が認知機能の維持に寄与し、認知症のリスクを低減する可能性があることが示されました。
この研究は、アメリカとイギリスの約10万人のデータを基に行われ、知的刺激の多い職業に従事していたグループは、そうでないグループと比べて、認知症の発症リスクが約23%低いと報告されています。
これらの研究結果を踏まえると、以下のような特徴を持つ職業が認知症になりにくいと考えられます。
出典:Mentally challenging jobs may reduce the risk of dementia
知的活動が豊富な職業
研究者、教育者、エンジニア、医療従事者など、専門知識を活用し、問題解決や思考力が要求される職業は、脳の働きを刺激し、認知機能の維持に役立つと考えられます。
これらの職業では、新しい情報を学び、複雑な問題を解決する過程で、脳の神経回路が活性化され、認知機能の低下を遅らせる効果があるとされています。
社会的交流が多い職業
営業職、カウンセラー、接客業など、人とのコミュニケーションが多い職業は、社会的スキルを養い、孤独感を減少させることで、認知機能の低下を予防する効果があるとされています。
これらの職業では、日々の対人関係を通じて、感情の共有や意見の交換が行われ、社会的なつながりが強化されることで、認知機能の維持に効果的だと考えられます。
創造性を要求される職業
アーティスト、デザイナー、作家など、創造性や表現力を求められる職業は、脳の様々な領域を活性化させ、認知機能の維持に寄与すると考えられます。
これらの職業では、新しいアイデアの創出や芸術的な表現を通じて、脳の柔軟性が促され、認知機能の低下を予防する効果があるとされています。
終身学習が促される職業
IT業界や法律関係など、常に最新の知識を学び続ける必要がある職業は、学習することで脳を鍛え、認知機能の低下を遅らせることができると可能性があります。
これらの職業では、専門分野の進展に追いつくための継続的な学習が求められ、知的好奇心が刺激されることで、脳の活性化が促されると考えられます。
認知症に効果的な予防対策
認知症の予防対策においては、生活習慣の見直しや健康管理が効果的と考えられています。
認知症予防のための具体的な対策としては、以下の点が挙げられます。
① 適度な運動
定期的な運動は、脳の健康を維持するために効果的です。週に数回、30分程度のウォーキング、水泳、ランニングなどの有酸素運動が推奨されています。
② バランスの良い食事
地中海式ダイエットなど、抗酸化物質やオメガ3脂肪酸を豊富に含む食事は、脳の健康を支えます。野菜、果物、全粒穀物、魚を積極的に取り入れましょう。
③ 病気の管理
高血圧、糖尿病、脂質異常症などの病気は、認知症のリスクを高める可能性があります。定期的な健康診断でこれらの病気を管理しましょう。
④ ストレスの管理
長期間のストレスは、認知機能に悪影響を与えるため、リラクゼーション技法や趣味を通じてストレスを軽減することが大切です。
⑤ 社会的なつながり
友人や家族との交流、趣味のグループやボランティア活動への参加など、社会的なつながりを持つことは、精神的な健康を保ち、孤独感を減らし、認知症予防に効果的とされています。
以上のような生活習慣の改善や健康管理を心がけることで、認知症の予防に努めることができます。
職業など日常の負担によるリスクへの配慮も含め、日々の生活の中で意識的に取り組むことが重要とされています。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割程度の方は1年以内に認知症へと進行すると言われています。
一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。