アルツハイマー型認知症とアルコール(酒)依存症の関係とは?

アルツハイマー型認知症は、認知症の種類の中で最も一般的な種類であり、認知症患者の約6割を占めていると言われています。

 

海外で行われた最新の共同研究では、アルコール依存症が認知機能を低下し、アルツハイマー型認知症の発症を引き起こす可能性が示されました。

 

この記事では、最新研究をもとにアルコールとアルツハイマー型認知症の関係性や病態の治療法などを解説します。

 

 

アルツハイマー型認知症とは

アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)は、異常なたんぱく質「アミロイドベータ」によって、脳が萎縮し、認知機能の低下を引き起こす病状です。

 

アルツハイマー型認知症は、時間の経過とともに人間の記憶、思考、行動に影響を及ぼし、最終的には日常生活の基本的な活動を行う能力を奪うとされています。

 

アルツハイマー型認知症の初期症状は一般的に軽度で、短期の記憶障害(例:最近の出来事を思い出せない)から始まります。

初期症状は、加齢による記憶力低下と間違えられることが多いです。しかし、アルツハイマー型認知症が進行すると、症状は重度になります。主に、言語障害感情・行動の変化、そして時間と場所の認識の喪失などの症状が増え、日常生活に深刻な影響を与えます。

 

病態が徐々に進行すると、通常の日常生活を送るのが難しくなり、徹底的な介護が必要となることが多いとされています。

 

現在、アルツハイマー型認知症の根本的な治療法は存在しないため、進行は止まらず、死に至りやすい病態だと考えられています。しかし、アルツハイマー病の新薬や非薬物療法などの治療法に向けた研究が活発に行われているようです。

 

アルコール依存症とは

アルコール依存症(アルコール使用障害)は、長期的にアルコールの摂取を制御できない状態を指します。アルコールを摂取し続けた結果、身体的・精神的な健康、仕事、または人間関係に悪影響を及ぼす可能性が高いと考えられています。アルコール依存症の特徴的な症状は以下のようなものがあります。

 

・アルコールに対して強い耐性がある。

・アルコールを摂取しないと、汗をかく、震える、吐き気を感じるなどの症状が現れる。

・アルコールの摂取量をコントロールできない

・アルコールを飲むことが生活の中心になる。

・アルコール摂取により、かつて楽しんでいた活動や趣味に興味を失う。

・アルコールが物理的または心理的問題を引き起こしているにもかかわらず、その問題を無視する。

 

アルコール依存症は、体調や健康に重大な影響を及ぼすだけでなく、思わぬ事故を引き起こすリスクも高くなるとされています。

アルコール依存症は、医療専門家の援助を必要とする深刻な状態です。治療は一人一人の状況によりますが、カウンセリングや薬物療法、そして入院治療が必要になる場合があります。

 

マウスを使用した最新研究:アルツハイマー型認知症とアルコール依存症

2023年の6月に公開された最新の研究は、スクリプス研究所とボローニャ大学の科学者たちによって行われたマウス研究です。

 

研究の目標は、長期的なアルコールの摂取がアルツハイマー型認知症にどのような影響を与えるのか調査することでした。研究の対象は、アルツハイマー型認知症に罹患しやすい遺伝子を有するマウスと通常のマウスに分類されました。

 

前者のグループは、アルコール依存症の人が一般的に摂取する量のアルコールを5~6週間、断続的に蒸気にさらしました。アルコール依存症と同じ量のアルコールをさらしたマウスのグループと、通常のマウスのグループの認知機能が比較されました。

 

研究の結果、定期的に高濃度のアルコールにさらされたマウスは、通常のマウスと比較して、認知機能の低下が約2ヶ月早くなることが示唆されました。

そして、アルコール依存症がアルツハイマー型認知症の進行を加速させる可能性があることも示されました。

 

出典:A history of repeated alcohol intoxication promotes cognitive impairment and gene expression signatures of disease progression in the 3xTg mouse model of Alzheimer’s disease

  

研究の注意点

この研究はマウスを使用して行われたものであり、人間にその結果を直接適用することはできません。また、研究者たちはアルコールの蒸気をマウスに吸入させましたが、これは人間が通常摂取する方法とは異なります。

 

そのため、人間に対するアルコールの影響は、今回の研究で観察された影響とは異なる可能性があります。

 

アルツハイマー型認知症とアルコール依存症の相互作用についての理解は、この進行性疾患の予防と治療にとって重要な要素であると考えられています。

 

アルコールを過度に摂取すると他の認知症にもなる?

アルツハイマー型認知症以外には、アルコール性認知症という認知症の種類がアルコールの過度な摂取によって病状が進行するといわれています。

 

アルコール性認知症は、長期間にわたる重度のアルコール摂取によって発症する認知症です。主な症状には、記憶障害、学習能力の低下、対人スキルの低下などがあります。

アルコールは特に脳の前頭葉を損傷します。脳の前頭葉は、意思決定、判断力、社会的行動、創造性などの重要な機能を担っています。

 

アルコール依存症を治すには

アルコール依存症から脱却するには、「断酒」することが一番有効的な方法だといわれています。

しかし、アルコール依存症の人は簡単にアルコールを日常から切り離せないため、強固な意志がない限り、断酒するのは困難だとされています。

 

その時は、以下の手順が推奨されています。

 

自分の状態を認識する

まず、自分がアルコール依存症であることを認識し、それが自身の健康や人間関係、職場でのパフォーマンスに悪影響を及ぼしていることを理解することが重要です。

 

自分の状態を認識することが、アルコール認知症を治す最初の一歩になると考えられています。

 

専門家に相談する

アルコール依存症は医療問題であり、精神医療専門家、カウンセラー、専門的な依存症治療施設など、専門家の援助を求めることが必要です。

 

専門家は、患者に依存症からの回復に向けた治療計画を策定し、必要に応じて薬物療法も提供するとされています。

 

自助グループに参加する

アルコール依存症の自助グループは、同じ問題を抱える人々とのつながり、互いに支援し合うことができます。これは、アルコール依存症からの回復に大いに役立つとされています。

 

健康的な生活習慣を心がける

健康的な食事、適度な運動、十分な睡眠など、全般的な健康状態を維持することも重要です。また、ストレスを適切に管理することで、アルコールへの依存を増加させるのを防ぐことが可能だといわれています。

 

アルツハイマー型認知症の治療法

アルツハイマー型認知症は現在のところ治癒する方法は存在しません。ただし、その進行を遅らせる、または症状を軽減するための治療が行われています。これには薬物治療と非薬物治療が含まれます。

 

薬物治療

コリンエステラーゼ阻害薬: この薬剤は、脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を遅らせ、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる効果があるとされています。アセチルコリンは記憶や学習に重要で、アルツハイマー型認知症の患者ではこの物質が不足しています。

 

NMDA受容体拮抗薬: この薬剤は、グルタミン酸という神経伝達物質の過剰な放出を防ぎます。グルタミン酸の過剰な放出は神経細胞の損傷や死を引き起こす可能性があります。

 

抗うつ薬: アルツハイマー型認知症の患者はうつ病を経験することが多く、抗うつ薬はこれらの症状を軽減するのに有効だとされています。

 

非薬物治療

周囲の人によるサポート: これには日常生活の支援、安全の確保、適切な栄養と睡眠、レジャー活動などが含まれます。また、介護者の教育とサポートも重要な一部です。

 

認知療法: 患者が自分の思考や行動を理解し、管理する能力を向上させることを目指す一連の技術です。これには認知行動療法、記憶訓練、認知リハビリテーションなどが含まれます。

 

生活習慣の改善: バランスの取れた食事、定期的な運動、十分な睡眠、アルコールとタバコの使用を控えるなど、健康的な生活習慣を維持することは認知症の進行を遅らせる可能性があります。

 

これらの治療法は、患者の個々の症状、健康状態、生活習慣によって適応され、様々な療法と組み合わせて行われます。常に医療専門家と密接に連携して、最良の治療計画を策定することが重要です。

 

認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要

認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。

 

そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。

MCI段階で発見すれば進行を抑制できる

認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。

物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。

 

しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。

 

つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。

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