意識障害は、意識のレベルや内容が正常ではなくなる状態を指します。
意識障害の中でも認知症とせん妄は特に注目され、症状が似ているため、誤診されることがあるとされています。
本記事では、認知症とせん妄の違いを明確にし、原因から治療法まで、詳しく解説します。
認知症とは
認知症とは、認知機能が徐々に衰える一連の病気を指します。
その中でも「アルツハイマー型認知症」が最も一般的され、「レビー正体型認知症」、「脳血管性認知症」、「前頭側頭型認知症」、「アルコール性認知症」など、たくさんの種類が存在します。
認知症の症状は、大きく中核症状とBPSD症状の二つに分類されています。
中核症状は認知症の特徴的な症状を指し、BPSD症状は患者の間で個人差がある症状だと捉えられています。
中核症状
・記憶障害 → 知り合いの名前が思い出せない、最近の出来事を忘れる
・見当識障害 → 近所で迷子になる、他人との関係性が分からない
・理解力・判断力の低下 → 話についていくことが困難になる、社会のルールを守れなくなる
・実行機能障害 → 計画を立てられない、物事の一連の動作ができない
BPSD症状
認知症の発症原因は多岐にわたり、高齢、脳卒中、心疾患などが関与していますが、明確な原因はまだ解明されていません。
そのため、一度発症すると最期まで進行し続ける深刻な病気と考えられています。
せん妄とは
せん妄とは、認識、意識、思考の急激な変化を特徴とする意識障害とされています。
せん妄の症状には、以下が含まれます。
・意識混濁 → 外部の刺激に無反応になる、ぼーっとする
・錯乱 → 興奮、感情の起伏に波がある
・見当識障害 → 時間と場所の認識が低下する
・睡眠障害 → 昼夜のリズムが乱れる
・幻覚 → 実際に存在しないものが見える
せん妄の原因は一般的には体内の感染症、薬物の影響、脱水、栄養不足、手術後の合併症、または慢性疾患の急激な悪化など、身体的または精神的な健康状態の変化に起因すると考えられています。
高齢者、認知症患者、または重大な身体疾患を抱えている人が最も高いリスクにさらされているようです。
そして、せん妄には主に「過活動型」「低活動型」「混合型」3つの種類があるとされています。
過活動型せん妄では患者が過剰に活動的または攻撃的になることがあり、低活動型では反応が鈍く、何事にも無関心な状態になることがあるとされています。
認知症とせん妄の違い
認知症とせん妄は、特に高齢者に見られる意識障害の形態であり、いずれも認識、記憶、思考、行動に深刻な影響を及ぼす可能性があるとされています。
しかし、これら二つの状態は明確に異なる特徴を持っています。
以下は、認知症とせん妄の主な違いを簡潔にまとめたものです。
認知症は、認知機能の継続的な低下を特徴とする慢性的な病態とされています。
これに対して、せん妄は急激に発症し、意識の混濁、注意力の低下、認知の変動を特徴とする一時的な状態とされています。
認知症とせん妄は、併発することがあり、認知症患者がせん妄の症状を発症することもあるとされています。
このため、これらの病状を正確に区別し、適切な治療を行うためには、専門医による詳細な診断が必要とされています。
出典:Differentiating Delirium Versus Dementia in the Elderly
夜間に認知症とせん妄が悪化する原因とは
認知症とせん妄は、特に夜間に症状が悪化することがあります。
この現象には、生物学的、環境的、心理的な要因が関与しています。以下では、これらの状態が夜間に悪化する原因について説明します。
夜間に認知症が悪化する原因
認知症の患者さんでは、夜間に不安、混乱、攻撃性の増加などの症状が悪化することがあるとされています。
これは「夕暮れ症候群」とも呼ばれています。
たとえば、患者さんが夕方から夜にかけて落ち着きをなくし、徘徊したり、家族に対して攻撃的になったりすることがあるとされています。
この現象の原因としては、日中の活動量の減少、照明の変化による生体リズムの乱れ、疲労や睡眠障害が挙げられるようです。
さらに、認知症の患者さんは環境の変化に敏感で、夜間の暗さや静けさが不安や恐怖を引き起こすことがあるとされています。
これらの感情は、認知症の症状を悪化させる要因となると考えられています。
夜間にせん妄が悪化する原因
一方、せん妄の方が夜間に症状が悪化しやすいとされています。
夜間に発症するせん妄は「夜間せん妄」とも呼ばれ、患者さんが夜に不安定になり、混乱や幻覚、妄想を経験する状態を指します。
例えば、患者さんが突然、自分がどこにいるのか分からなくなったり、見知らぬ人が部屋にいると感じたりすることがあるとされています。
このような夜間せん妄の原因には、睡眠周期の乱れ、環境光の不足、夜間の静けさによる孤立感、日中の休息不足が考えられるようです。
また、夜間に看護スタッフや家族のサポートが減少することで、患者さんの不安が増加し、せん妄の症状が悪化することもあるとされています。
このように、認知症とせん妄の症状が夜間に悪化する原因は多く考えられます。
認知症とせん妄の患者への上手な対応方法
認知症やせん妄を抱える方への接し方は、その人の日々の生活の質を大きく左右する重要な要素とされています。
適切な対応方法を理解し、実践することで、患者さんの不安を和らげ、より穏やかな日常を支えることができると考えられています。
以下に、認知症とせん妄への対応方法を3つ提案します。
認知症とせん妄の対応方法① 相手への理解を示し、味方になる
認知症やせん妄のある方は、時に理解しがたい行動をとることがあると思います。
しかし、これらの行動は、彼らなりの意思疎通や不安、恐怖を表現していることが多いと考えられています。
相手の行動を否定したり、無理やり止めようとすると、不安感が増し、症状が悪化する可能性があるとされています。
代わりに、彼らの気持ちに共感し、理解を示すことで、孤独感を和らげ、安心感を提供することができます。
例えば、相手が過去の出来事を現在のものとして語ったとき、事実を訂正するのではなく、その話に耳を傾け、感情に寄り添う対応が有効であるとされています。
認知症とせん妄の対応方法② 感情的にならない
認知症やせん妄による行動は、対応をする側にとっても大きなストレスになることがあります。
しかし、感情的に反応してしまうと、状況はさらに悪化する可能性があるとされています。
落ち着いて、冷静に対応することで、相手も安心し、会話がスムーズになります。
例として、相手が攻撃的な態度をとった場合でも、冷静になにが起こったのか、相手の考えを汲み取ることで、状況を落ち着かせることができるとされています。
認知症とせん妄の対応方法③ 居心地のいい環境を用意する
認知症やせん妄の人は、騒がしい環境や予期せぬ変化に敏感に反応することがあります。
安定した、静かな環境を提供することで、彼らの不安や混乱を軽減し、より落ち着いて過ごすことができます。
例えば、室内の照明を柔らかくし、騒音を最小限に抑えることで、快適な空間を作り出すことが可能です。
また、個人の好みに合わせた小物や写真を配置することで、安心感を提供し、ポジティブな影響を与えることができるとされています。
認知症とせん妄の治療法
認知症とせん妄は、それぞれ異なる治療が導入されています。
認知症は主に症状の緩和に焦点を当てた治療が行われ、せん妄はその原因に対する直接的な治療が中心となります。
以下では、認知症とせん妄に対する具体的な治療法について詳しく解説します。
認知症の治療法
認知症の治療法は大きく分けて薬物療法と非薬物療法の二つに分類されます。
薬物療法では、主にコリンエステラーゼ阻害薬(ガランタミン、リバスチグミン、ドネペジル)やメマンチンが処方されると言われています。
これらの薬は、認知症の進行を遅らせることや、症状の緩和を目的として投与されます。
しかし、これらの薬剤には副作用もあり、定期的な医師の診察が必要とされています。
非薬物療法は、薬を使用せずに行われる治療法で、副作用のリスクが低く、患者一人ひとりに合わせた治療法を選定しやすいという特徴があるとされています。
以下のような非薬物療法と例があるとされています。
【レクリエーション】好きなことや娯楽を無理のない範囲で楽しむ
【運動療法】有酸素運動等で体力を向上させる
【回想法】過去の思い出話をする
【心理療法】対話を通して不安感やうつ症状の緩和
【アロマセラピー】アロマの香りを部屋に漂わせる
せん妄の治療法
せん妄の治療には、まずその根本原因の特定と治療が重要とされています。これには、薬物の見直しや感染症の治療が含まれるようです。
環境整備もせん妄治療において重要で、静かで落ち着いた環境を整えることが、症状の悪化を防ぐために推奨されています。
また、栄養状態の改善、適切な睡眠の確保、痛みの管理にも注力するとされています。
これらの治療法によって、せん妄による合併症のリスクを低減することができると考えられています。
重度のせん妄には、興奮や鎮静効果を持つ「抗精神病薬」が処方されることがありますが、これらの薬剤は副作用の可能性もあるため、慎重に処方されるようです。
まとめ
認知症とせん妄には、原因や症状において明確な違いがありますが、どちらも早期の発見と適切な対策が必要とされています。
認知症とせん妄、もしくはこれらの病気と似たような症状がある方は、病態が悪化する前に、早急に医療機関に受診することをおすすめします。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。
一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。