認知症の初期症状のひとつに、怒りっぽくなることがあります。その怒りは理不尽に見えることも多く、さらに認知症の本人も「自分がなぜ怒っているのか」を理解できていないケースがほとんどです。
この記事では、認知症の人がなぜ怒りっぽくなるのか、怒りっぽくなった人への適切な対処法について解説します。
認知症の初期症状は怒りっぽい?
「急に不機嫌になる」「大声をあげ威嚇する」「殴りかかろうとする」のように、認知症の初期症状として性格の変化がおきることがあり、「易怒性」という認知症の症状のひとつです。
妄想や勘違いにより怒るなど、周囲が対応に困ってしまうことも少なくありません。
ここでは、怒りやすくなる原因や怒りやすくなった人への対処法を解説します。
認知症の初期症状で怒りっぽくなる原因
認知症の初期症状で怒りっぽくなるのは、「易怒性」という認知症の症状の一つです。
怒りっぽくなる原因は、感情抑制ができなくなるからといわれています。
認知症によって、感情をコントロールする大脳の前頭葉部分が委縮することで、怒りやすい性格になってしまうのです。
その他に、「人間関係の悪化による孤独感」「体調不良による不快感」「薬の副作用」なども、怒りっぽくなる性格の原因になるといわれています。
「急に不機嫌になる」「大声をあげ威嚇する」「殴りかかろうとする」のような行動に対して、周囲が対応に困ってしまうことも少なくありません。
ここでは、怒りやすくなる原因や怒りやすくなった人への対処法を解説します。
感情抑制ができない
認知症の人が怒りやすくなる原因は、感情抑制ができなくなるからです。
認知症になると、状況への適応ができない、適切な判断ができないなどの「認知機能障害」が現れます。このため、状況が正しく把握できずに怒りにつながることがあります。
また認知症により感情抑制能力が低下して、それが「怒りっぽさ」につながるといわれています。つまり、本来であれば「怒るべきでない」と感情を抑制すべき状況においても、抑制能力が低下しているため、自分の思うがままの感情で行動してしまうのです。
人間関係の悪化による孤独感
では、認知症の人は何をきっかけに、何に対して怒ってしまうのでしょうか。
実は、認知症の人に「なぜ怒っているの」「どうしたの」と聞いても、きちんとした答えが返ってくることはほとんどないと言われています。それは、本人自身が何に対して怒っているのか理解できていないことが多いためです。
そのため、周囲の人々との関係が徐々に変化し、職場での人間関係悪化や家庭内での孤立が生じます。
この人間関係の悪化による孤独感が「怒りっぽい」性格を生み出してしまうのです。
体調不良による不快感
認知症の方は、自分の体調不良に気付きにくく、そのうえ周囲の人々に自分の体調不良を伝えることが困難になります。
認知機能の低下は、脱水症や便秘といった身体の不調を招きやすくなります。
こういった体調不良による身体の痛みや不快感は、イライラや怒りへと変化していきます。
薬の副作用
認知症は時間とともに徐々に悪化していきます。
その進行を遅らせる薬として、抗認知症薬というものがあります。
認知症に対して一定の効果を期待できる薬ですが、薬の副作用や飲み合わせによって、怒りっぽい性格になることもあるといわれています。
いずれの原因であっても、元気だった頃の本人には考えられないような怒り方が見られるという点で共通しています。
認知症の中核症状と周辺症状
「怒り」の原因となる認知症の症状は中核症状と周辺症状に分けて考えることができます。以下で、各症状の違いについて解説します。
中核症状とは
中核症状とは、脳の機能の低下による認知機能の低下から引き起こされる症状です。
名前の通り認知症の中核となる症状で、具体的には記憶障害、日時が不正確になる見当識障害、遂行機能障害、理解力・判断力の低下、失行、失語などがあります。
中核症状は、認知症の人であれば必ず起こる症状です。症状の程度は人により差がありますが、病気の進行とともに程度が重くなり、症状を完全に消失させることはできないとされています。
周辺症状とは
周辺症状とは、中核症状の二次症状として発生するものです。行動・心理症状とも呼ばれます。怒りやすさも、周辺症状のひとつです。
上述の理解力や判断力の低下といった中核症状は、本人に不安や混乱をもたらします。その不安や混乱を起因として副次的に引き起こされるのが、周辺症状です。
具体的には、怒りっぽさのほかに、不安、うつ、意欲低下、興奮、攻撃的な言動、徘徊、幻覚、妄想、不眠など多彩な症状が周辺症状にあたります。
これら全ての症状が見られることはまずありませんが、7〜8割の認知症の人に何らかの周辺症状がみられるとされています。
問題行動と見なされる症状が多い一方、本人が中核症状になんとか適応しようとした結果として、このような行動が引き起こされているケースも少なくありません。
また、周辺症状は、環境や周囲の人の対応が本人にとって適したものであれば、発生しない場合もありますし、自然と消失することもあります。
高齢者が怒りっぽいのは認知症が原因?
年齢を重ねるにつれて、「最近怒りっぽくなったかな?」と感じることもしばしばあります。その場合、認知症の始まりではないのかと不安や心配に思う方も多くいられると思います。
しかし、加齢によって怒りやすい性格になるのには、認知症の初期症状以外に生活環境の変化によるストレスや脳の老化により感情のコントロールができなくなっていることも考えられます。
ただし、怒りやすい以外の認知症初期症状がみられる場合は、認知症による性格変化の可能性が高いと考えられます。
認知症で怒りっぽくなった人への対処法
以下では、怒りっぽくなった人への対処法を紹介します。
共感して寄り添う
怒りっぽくなった認知症の人への対応として最も重要なのは、本人の怒りの感情に共感してあげることです。
たとえ理不尽に怒っているように見えても、その怒りの理由を知ろうしたり否定したり叱ったりせず、まずは本人の言っていることに耳を傾けてあげることが大切です。
その理由としては、大きく以下の3つがあります。
・なぜ怒っているか本人も理解できていないため
・怒りの原因となる妄想・勘違いは訂正不可能であるため
・叱った場合、本人は「なぜ叱られているか」を理解せずとも、「叱られていること」は理解するため
はじめに、上述の通り、認知症の人は「自分がなぜ怒っているか」を理解していないケースが多いです。
そのため「なぜ怒っているか」と聞くと、その問いに答えられない自分を腹立たしく思い、またそれを相手に上手く説明できないことに苛立ち、怒りを増幅させる結果になってしまうことが多いとされています。
また、認知症の人の妄想や勘違いというのは基本的に訂正不可能であり、それをいくら否定しても、本人の思い込みは変わりません。
つまり、妄想を否定すればするほど本人はより、怒りを強くしてしまうのです。反対に本人の話を否定せずに聞き、怒りの感情に共感してあげることで、怒りが鎮まってくることが少なくありません。
最後に、認知症の人は、認知機能障害がある場合でも、感情の機能は衰えていません。つまり「なぜ急に怒るの!」「なぜ嘘を言うの!」などと叱った場合、「なぜ叱られているのか」は理解せずとも、「叱られていること」は理解するとされています。
そして、なぜ怒られたかという記憶は忘れても、叱られて嫌な気持ちにさせられたことは覚えており、このような不快な気持ちが蓄積すると、周辺症状が悪化してしまうこともあるといわれています。
これが、「認知症の人を怒るとだめ」と言われる理由のひとつです。
このような理由から、怒りっぽくなった人に対しては、なるべくその感情を否定せずに、共感して話を聞いてあげることが有効であるといわれています。
距離を置く
暴言や暴力が始まったら、距離をとることも大事です。
興奮状態になっている時は、認知症の方にいくら共感して寄り添ってあげても、怒りがおさまらず、むしろ怒りが増幅してしまう場合があります。
そのような場合は、本人の興奮が落ち着くまで距離をとって様子を見てあげましょう。
怒っている本人とそれに対応するあなた自身も心身ともに疲れ切っています。
お互いにリフレッシュをするためにも距離をとりましょう。
怒りやすくなった認知症の方に対応するのが難しい場合は、無理をせずに介護ヘルパーや医師に相談することもおすすめします。
怒りやすいこと以外の認知症初期症状
ただし、認知症の初期症状は「怒りっぽくなる」ことよりも、「もの忘れ」から始まるケースが多いです。
また、それに加えて、日時が不確かになることや、理解力・判断力・集中力・作業能力の低下がみられることも多いです。
日常的な家事や趣味などにも変化が表れるため、以下を参照し認知症初期症状チェックをしてみましょう。
・同じ話を繰り返す(物忘れ)
・約束を忘れる(物忘れ)
・買い物の支払計算ができない(理解力の低下)
・周囲の会話速度についていけない・理解できない(会話力の低下)
・家事や作業にミスがふえる、要領が悪くなる(遂行力の低下)
・趣味の活動をやめてしまう(意欲や関心の低下)
上記のような具体的症状は、本人は自覚せずに、周囲が気づくことが多いです。
しかし、できていたことができなくなったり、周囲の状況を理解できなくなったことを本人が自覚すると、趣味や活動に関する意欲の低下や気分の落ち込みが見られ、認知症ではなくうつ病と疑われることもあります。
認知症の症状や対処法について、いくつかの認知症の症状ごとに徹底的に解説しています。
以下の記事から、認知症の種類やそれぞれの認知症の症状、対処法を確認して、怒りっぽい性格になった原因を考えてみましょう。
早期発見と定期的なセルフチェックが重要
「母親がなんだか怒りやすくなった」「父がこの頃忘れっぽい」家族にこのような認知症の疑いがある場合には、早期に発見することと、その進行度合いを定期的かつ恒常的にチェックすることが大切です。
認知症のチェックリスト
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MCI段階での早期発見が重要
認知症の一歩手前の状態として「軽度認知障害」があります。軽度認知障害はMCIと呼ばれ、正常な状態と認知症の中間の状態を指します。具体的には、物忘れのような記憶障害が出ているものの症状はまだ軽く、日常生活において周囲に影響を及ぼすほどの支障はきたしていない状態です。
MCIは、放置してしまうといずれは認知症へと進行していく可能性が高いと考えられています。一方で、MCIの段階で発見された場合には、回復する可能性が14〜44%ほどあるとも言われています。つまり、MCIの段階での早期発見が、認知症の進行を止めるためには非常に重要となるのです。
認知症の初期症状がみられたら早めに認知機能チェックをしましょう
ここまで、認知症の初期症状について紹介してきました。認知症の症状における「怒り」は、本人もコントロールできないことや、怒りの原因がわからないことが多いという難しさがあります。周囲の対応としては、叱ったりするのではなく、怒り感情に共感してあげることが大切になってきます。
また、認知症は早期発見が重要です。認知症の前段階であるMCI段階にて発見できれば、適切な措置を講じることにより回復の可能性があるためです。
※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。