「人の名前や最近の出来事とが思い出せない」
「近所を徘徊するなど、突拍子もないような行動をする」
認知症と聞くと、多くの人がこのような症状を思い浮かべるのではないでしょうか。
一口に認知症とは言っても様々な種別、症状があり、その症状や原因によっていくつかの種類に分けられるのです。
今回は、いくつかある認知症の種類の中でも「アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)」について徹底的に解説していきます。
認知症は、2025年に高齢者の5人に1人が発症するとの予測もあり、40代・50代からの早めの対策が必須とも言われている疾患です。
高齢化が加速する日本において、認知症はもう他人事ではありません。
この記事では、そのような不安を抱いている方に役立つ情報がたくさん含まれています。
アルツハイマー型認知症とは
幾つかある認知症の種別の中でも、患者数が最も多いのがアルツハイマー型認知症です。
厚生労働省の報告によると、認知症と診断された方の約70%はアルツハイマー型認知症に当たります。
アルツハイマー型認知症は、軽度の物忘れなどから始まり、症状の進行に伴って記憶力や思考力が低下が進行していきます。
発症初期は自立した生活が可能ですが、進行するにつれて日にちや時間の感覚がなくなったり、自分のいる場所が分からなくなったりと、生活に影響を与える様々な症状が現れてくるといわれています。
現代医療においては、一度アルツハイマー型認知症と診断されると完治は難しいと考えられており、意識的な予防と早期発見が認知症対策のカギと言われています。
男女比で見ると男性より女性の方が患者数が多い事が特徴として挙げられ、患者の大半が65歳以上の高齢者となっています。
稀に65歳未満でも発症する「若年性アルツハイマー型認知症」に罹る人もいるため、全世代において発症のリスクがある病気といえるでしょう。
アルツハイマー型認知症の症状と予兆
アルツハイマー型認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状」と呼ばれる2種類の症状に大別されます。
中核症状
中核症状とは、病気の進行と共に脳の神経細胞が壊れることで起こる症状です。
ものごとが覚えられない「記憶障害」、料理のような、工程がかかる作業が困難になる「実行障害」などが中核障害として挙げられます。
アルツハイマー型認知症になると、中核症状は誰にでも現れてくるといわれています。
周辺症状
一方で周辺症状は、認知症患者の周辺環境に左右されて起こる症状の事を言います。
「抑うつ」「暴力や暴言」「幻覚」「徘徊」などが例として挙げられます。
周辺症状は周囲の人との人間関係やその人の置かれている状況によって和らいだり、ひどくなったりします。
周辺症状は全く現れない方もいれば、顕著に現れる方もいます。
特に「暴力や暴言」「徘徊」などの症状が強く現れてしまうと、介護者にとっては介護疲れに直結し、その周辺症状が家族や周囲の人に及ぼす影響は大きいと言えるでしょう。
一方、何が症状の原因を正確に理解、分析をし、それを取り除いてあげることで周辺症状は和らぐこともあると言われています。
中核症状 | 周辺症状 | |
初期 | ・物を探す頻度が多くなったり、人の 名前や直前に話していたことを忘れてしまう ・日にちや時間の感覚に疎くなる |
・自発的に行動することが減り、周囲からはだらしなく見える |
中期 | ・自分の家の場所や、自分の部屋、トイレの場所が分からなくなる ・字を読む、服を着るなどの、今までできていた事ができなくなる |
・被害妄想が激しくなる ・自分がどこにいるか分からなくなり、徘徊を始める |
後期 | ・自分の親しい間柄(肉親、同居人) などが認識できなくなる ・本来食べられないもの(ビニール袋 など)を食べてしまう |
・失禁してしまう、排泄物をもてあそぶ など |
ご自身や周りの方に「物忘れ」や「認知症かもしれない」と思うような症状がありましたら、アルツハイマー型認知症以外の症状も確認しなければいけません。
レビー小体型認知症や脳血管性認知症などの、他の認知症の症状などについて詳しく解説している記事はこちらからお読みください。
レビー小体型認知症とは?末期症状や平均余命、診断基準などを徹底解説!
脳血管性認知症とは?症状や原因、「まだら認知症」との関係を徹底解説
「アルツハイマー型認知症によるもの忘れ」と「加齢によるもの忘れ」
自分が物忘れをしていると気づいた時に、「もしかして認知症の症状の現れかも...」と思ったことのある方もいるのではないでしょうか。
もしくは「年齢のせいだから仕方が無い」と楽観的になっている方もいるかもしれません。
実は、アルツハイマー型認知症と物忘れには違いがあります。
物忘れは、年齢を重ねれば誰にでも起こる事です。
例えば、「昨日の晩御飯に何を食べたか思い出せない」や「友人と会う約束の日が思い出せない」といったものが、物忘れに分類されます。
人間の脳は加齢と共に衰えてしまい、記憶から引っ張り出す作業が難しくなります。これらは自然な現象で、認知症ではありません。
一方で、認知症の症状が出始めると、自分の経験したことを記憶することが難しくなってしまいます。
例えば、「きのう晩御飯を食べたことは覚えているが、何を食べたか思い出せない」のが物忘れなのに対し、「きのう晩御飯をたべた事それ自体が記憶にない」という、食事という経験自体を忘れている状態を認知症と言います。
物忘れは「約束の日程をいつにしたのか思い出せない」のに対し、「約束をしたこと自体が記憶にない」という状態も認知症の疑いがあります。
また、本人が「忘れっぽくなった」という自覚があるかどうかも問題となってきます。最初は物忘れをする自覚があっても、次第に無自覚になっていく方は認知症のサインかもしれません。
アルツハイマー型認知症の原因は?
現在アルツハイマー型認知症の原因は解明されていませんが、現時点で有力とされる2つの説について以下で紹介します。
アミロイドβ
現時点では脳内でつくられるタンパク質の一種であるアミロイドβが現行の研究で最も有力とされている原因です。
このアミロイドβが脳内で蓄積して、脳神経細胞が破壊されて脳が萎縮することで、アルツハイマー型認知症を発症すると考えられています。現行の研究で最も有力とされている原因です。
アミロイドβは、アルツハイマー型認知症の症状を発症する20年~30年も前から脳内に蓄積され始めると報告されています。
健康な状態の人であれば、このアミロイドβは脳内で蓄積する前に身体の外に排出されます。
しかし、様々な要因により脳内のアミロイドβが排出されない状態になると、脳内で蓄積されて脳を萎縮させると考えられています。
特に、記憶を司る「海馬」にアミロイドβの蓄積が目立ち、認知機能の低下に繋がると言われています。
遺伝
遺伝もアルツハイマー型認知症を発症する要因の1つとして考えられています。
遺伝性のアルツハイマー型認知症を発症する場合、65歳以下の比較的若い段階で「若年性アルツハイマー」になる可能性が高いとする説もあります。
アルツハイマーになりやすい遺伝子が存在するという報告もありますが、科学的な根拠はまだまだ解明されていません。
しかし、遺伝によって発病のリスクが上がるという報告があるのは事実であるため、親族にアルツハイマー型認知症の方がいる場合は注意した方が良いでしょう。
生活習慣とアルツハイマー型認知症の関係
アミロイドβや認知症に関する研究は、現代の医療技術をもってしても解明できないことが多くあります。
現在までの研究で報告されているアミロイドβの蓄積の原因に、生活習慣の乱れがあります。
今回はその中でも、研究によって報告されている2つの原因を紹介します。
睡眠
最近の研究で、アミロイドβは、日中起きている時に脳内に溜まり、寝ている時に排出されていると考えられています。
2021年のスタンフォード大学(アメリカ)は、睡眠時間が6時間未満の人と7~8時間の人でアミロイドβのレベルを比較しました。
この研究により、睡眠時間が6時間未満の被験者は7~8時間の被験者と比較して、アミロイドβのレベルが高くなっている事が分かりました。
また、6時間未満の被験者は、認知機能の評価や認知症を測るテストにおいても良好ではない結果が出たとされています。
食事
東京大学の研究によると、2型糖尿病患者はそうでない人に比べて、認知症発症率が約2倍高いという事が明らかになっています。
2型糖尿病とは、肥満や生活習慣の乱れ、遺伝や過度なストレスをきっかけに、インスリンの分泌が上手くいかなくなったり、インスリンが効きにくくなる病気を言います。
インスリンとは、膵臓から分泌されるホルモンの一種で、血糖値を一定に保とうとする働きがあることで知られています。
インスリンには、血糖値を一定に保つ働きの他に、脳内のアミロイドβを分解する作用もあります。しかし、糖尿病になるとインスリンの働きが鈍くなり、血糖値を一定に保つ為に必要なインスリン量が上昇します。
その結果、身体に分泌されるインスリンの量が上昇し、脳に分泌されるインスリン量が減少します。
脳内のインスリン分泌量が減少する事で、アミロイドβの分解が活発化されなくなり、アルツハイマー型認知症の発症に繋がるといわれているのです。
出典:Differential effects of diet- and genetically-induced brain insulin resistance on amyloid pathology in a mouse model of Alzheimer’s disease | Molecular Neurodegeneration
アルツハイマー型認知症の予防
積極的に外出する
年齢を重ねるにつれて、外出することが億劫になってくる方は多いと思います。
しかし、自宅にこもりっきりになってはいけません。
運動不足による健康状態の悪化に繋がる可能性の他、、社会や人との関わりが途絶えてしまい、認知症を発症する可能性が高くなりやすくなるともいわれています。
普段は車や交通機関を使って出かけるところへ、歩いて行ってみたり、定期的に友達と会ったりなど、少しの「非日常」を取り入れることを意識するだけで十分です。
脳に刺激を与え続け、認知症予防に対しての意識を持つ行動が重要です。
人と会話をする
実は口を動かして人と会話をすることは、脳に大きな刺激を与えると言われています。誰とも会話をしない日々が続くと、認知機能が低下してしまう恐れもあります。
一人暮らしの高齢者が増え続けている今、一日中誰とも会話をしない人も多いのではないでしょうか。
家族や友人に限らず、コンビニやスーパーの店員との簡単なやり取りでも、全く会話をしないよりははるかに良いと言われています。
規則正しい生活を送る
睡眠時間の短さや、塩分や糖分の多い食事など、日々の悪い習慣が積み重なって認知症に繋がるケースもあるといわれています。
年齢を重ねるにつれて、規則正しい生活を送ることが難しくなる方もいるでしょう。
例えば、だんだん夜の寝つきが悪くなってしまう方もいます。そんな方は昼寝をするなどして、自分の身体にあった生活習慣を確立させましょう。
規則正しい生活を送る事は様々な生活習慣病を予防することになり、ひいては認知症の予防にもなります。
人生を長く健康的に楽しむためにも、生活習慣の見直しは不可欠です。
アルツハイマー型認知症の治療
アルツハイマー型認知症の根本的な治療法はまだ確立されておらず、一度発症してしまうと完治することは難しいと言われています。
しかし、薬の投与による治療やリハビリなどが認知症の進行を遅らせ、症状を改善する可能性があることが分かっています。
リハビリ
リハビリの例として「運動療法」「音楽療法」「回想法」などがあります。
これらの療法が 効果的かどうかは人によって様々で、劇的な効果がある人もいれば、あまり効果が現れない 人もいると言われています。
運動療法
認知症が進行すると徐々に身の回りの動作が行えなくなっていき、筋力や心肺機能、体力が低下していきます。
身体機能の低下を防ぎ、転倒によるケガや寝たきりを防ぐために行われるのが運動療法です。
散歩や簡単なレクリエーション等でも運動機能の低下を防ぐ効果が報告されているほか、実行機能や空間認知機能が向上するという報告もあります。
認知症の方が無理のない範囲で楽しく活動できるよう意識する必要があります。
音楽療法
音楽を通して脳を活性化させるリハビリを音楽療法と呼びます。
認知症の方が好きだった懐かしの音楽を聞くことで脳を活性化させる効果が期待されています。
また、カラオケをすることで楽しみながら表情筋を鍛えたり、楽器を演奏することで指先を使い脳を活性化させたりと、自発的に音を生み出すことも音楽療法に分類されます。
回想法
認知症患者の過去のできごとを思い出そうとするリハビリ方法を回想法と言います。
認知症になってしまうと、最近のできごとを記憶する事は難しくなりますが、昔のことは覚えている場合が多くあります。
多くの場合、回想法はアルバムなどを用いて行います。昔の写真などを見返しながら当時のことを振り返り、思い出を語ります。
思い出にふけることでリラックス効果があると期待されており、思い出を語り合うことで人とのコミュニケーションが生まれ、脳が刺激されることが期待されています。
認知症のリハビリに関連したより詳細な記事は、こちらのリンクからどうぞ。
認知症予防のトレーニングは運動・脳トレ・社交の3側面からアプローチ。定期的な認知機能測定方法まで
薬による治療
日本で認証されているアルツハイマー型認知症に対する薬は4種類です。
- ドネペジル(商品名:アリセプト)
- ガランタミン(商品名:レミニール)
- リバスチグミン(商品名:イクセロンパッチ)
- メマンチン(商品名:メマリー)
それぞれがアルツハイマー型認知症の進行を遅らせることに対して一定の効果を発揮すると報告されています。
しかし、服用する人の体質や、他の薬との飲み合わせなどによって副作用がでる可能性があると共に、場合によっては認知症を悪化させてしまう可能性もあると報告されているため、医師との相談のもと、正しい薬を正しい分量服用しなければいけません。
アルツハイマー型認知症の方への対処と介護の心得
繰り返し同じ話をする事に怒らない
アルツハイマー型認知症の方にとっては、自分が話した内容や他の人から聞いた内容を覚える事が困難です。
同じ話を何度も繰り返し聞かされたり、何度も同じ話をしなくてはならなくても「また言わないといけないの!?」というような対応をしてはいけません。
強く当たられた場合、認知症の方は怒られたと感じたり、不快に感じたりします。
この時の感情が積もっていくと、認知症の症状の「抑うつ」状態になりかねません。
介護者は忍耐強く、何度も繰り返す話題に付き添ってあげなければなりません。
ただし、介護者がストレスを溜めすぎて「介護疲れ」にならないように、介護者が自分の精神状態を配慮した上で、コミュニケーションを取ることが良いでしょう。
メモなどを利用する
約束がある場合や大事な話をした後は、忘れないようにメモに残してあげましょう。
冷蔵庫の扉にメモを貼ったりカレンダーに書き込んだりなど、分かりやすい場所にメモを残してあげることが大切です。
また、本人がメモの存在自体を記憶できなくても、決して怒鳴りつけてはいけません。丁寧に対応してあげることが重要です。
薬の管理をする
認知症の症状が進行すると、患者本人で薬の管理をすることが難しくなります。
既に服用した薬を何度も飲んでしまったり、逆に頻繁に飲み忘れてしまうと重大な健康被害に繋がる恐れがあります。
薬を認知症の方の手の届かないところに置いておくほか、飲み忘れがないように一回一回の薬を介護者が管理し、飲み終えるまで見届けることで事故を防ぐ工夫が必要です。
連絡先を常備させ、いざという時に備える
認知症が進行するにつれて、一度外出してしまうと帰り方が分からなくなったり、徘徊し始めたりといった症状が出てくる可能性もあるでしょう。
徘徊や帰り道が分からなくなる症状はいつ現れるか予測がつかないものです。
「まだ進行していないから大丈夫」と考えず、もしもの時に備えて、認知症の方には常に連絡先を携帯してもらうようにしましょう。
介護サービスなどを利用する
介護サービスなどを通してプロの力に頼ることも、家族や周りの人ができるサポートの1つです。
認知症の方にはプロの手を借りることができる他、家族が介護から離れることで介護疲れを防止することにも繋がります。
仕事や育児などで介護との両立が難しい方にとっては、ためらわず積極的に介護サービスを
活用することで認知症の方の大きな助けになることもあるでしょう。
アルツハイマー型認知症の進行と寿命
アルツハイマー型認知症はゆっくりと時間をかけて進行していきます。
物忘れなどの初期症状から始まり、8年から10年かけて進行し、最後には寝たきりになるケースが多いとされています。
発症する年齢が若いほど、進行のスピードが早くなることもアルツハイマー型認知症の特徴とされています。
アルツハイマー型認知症を発症した方の平均的な寿命は8年~12年と言われています。
初期症状は本人も周りの人間も気が付かない程に小さなものですが、だんだん脳の損傷が広がり、症状が重くなるに連れて余命も短くなっていくと考えられています。
ただし、アルツハイマーの患者の中にも、早期発見で進行を遅らせることに成功した人も要れば、または進行によって転倒したり、ビニール袋などの不可食なものを口にしてしまう等寿命を待たずに亡くなる方など様々であるといわれています。
そのため、アルツハイマー型認知症の方の余命にも、それぞれ個人差があると考えられています。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
アルツハイマー型認知症は一度発症すると完治が困難とされています。予防に有効な各種施策を講じることで発症のリスクを抑えることは可能ですが、ゼロにする事はできません。
早期発見、早期治療が進行を食い止めるカギとされますが、多くの方は検査を受ける機会を 逃し、発見が遅れてしまうのが実情です。
アルツハイマー型認知症は初期の段階では気が付きにくく、いつの間にかゆっくりと進行していきます。手遅れにならないよう、定期的にかかりつけの病院やクリニックで健診を受けて、早期発見と予防治療を意識しましょう。
そして、早期発見には定期的に認知機能をチェックすることが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。