高齢社会の日本では、認知症は今やメジャーな疾患の1つとなっており、2025年には高齢者の5人に1人が発症すると言われています。
一方で世界に目を向けてみると、米国ワシントン大学で2021年に行われたある研究報告では、2050年までに世界中の認知症患者の数は2019年の5470万人からおよそ3倍に増加するという予想が出されています。
今後益々増えていく認知症患者に対して、世界の国々はどのような対策を講じているのでしょうか。
認知症に対する各国の対応例
イギリス
現在、国際社会において認知症対策のリーダーシップを取っているのはイギリスと言えるでしょう。2013年にはG8加盟国(現在はG7)を招集し、G8認知症サミットを主催しました。
参加国間での認知症の知見を共有し、グローバルな解決方法を導き出すことを目的とし、日本も参加しています。
また、イギリスの地域単位で「メモリーサービス」という活動を行っており、家庭医と病院の医師がスムーズに連携することで認知症の疑いがある高齢者に血液検査やMRIを実施してる。
アメリカ
CCRC(Continuing Care Retirement Community)と呼ばれる高齢者向けの集合住宅を設置しています。
これは引退した高齢者が健康な状態の時に移住し、健康状態によって受けられるケアが変わってくる施設です。
例えば、当初健康な状態で入居した時は自立した生活が出来る住環境が用意されます。
その後の健康状態により、生活の一部に支援が必要な方々を対象とした施設、生活の大半に支援が必要な方々が入居する施設と段階的に分かれています。
全ての段階において施設の運営元が一貫しているため、入居後からは健康状態に合わせて継続して支援を受けられるといった特徴があります。
認知症患者に限らず入居が可能で、2017年時点において全米約2,000箇所、75万人が入居していると言われています。
オランダ
オランダの首都アムステルダムには、ホグウェイという認知症患者の人だけが暮らす村があります。
認知症のテーマパークとも言われており、村の中だけで生活が完結出来るようにスーパーや病院、映画館にレストランなどの施設が整えられています。
村の中にもケアテイカーや栄養士などはいますが、認知症の人は村の中を制限なく自由に歩き回ることができ、様々なアクティビティやイベントに自分の意思で参加することができます。
また、文化的な生活やインドアな生活など、ライフスタイルに合わせた生活を送ることができます。
日本
日本政府は2019年に「認知症施策推進大綱」をとりまとめました。
認知症を発症しても住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる「共生」を目指し、認知症バリアフリーの取組みを進めていくとともに、共生基盤の下、通いの場の拡大など「予防」の取組みを政府一丸となって進めていくことを目標としました。
市町村全体でケアワーカーと連携を取りスムーズな対応を目指す、認知症サポーター養成の具体的な目標数などを定めています。
国際社会での認知症対策の現状
これからもグローバルな社会問題として、日本を含めた世界各国が認知症患者増加への対策を講じていく必要があります。
現実的な問題として、福祉や介護サービスの領域では益々認知症患者への対応に追われ、労働人口が減少傾向にある中で、国の費用負担や人材確保は困難を極めることが予想されます。
今後は、認知症患者への対応もさることながら、いかに健康寿命を延ばして認知症を予防していくかが国レベルあるいは個人においても大きな鍵となることは間違いありません。
WHOによると、「WHO加盟国の75%以上が2025年までに、認知症に関する国の政策、戦略、計画、枠組みを策定または更新し、単独または他の政策・計画と整理統合を完了する」ことを目標に掲げていますが、2021年時点でWHO加盟国の32か国しか対策を掲げていない現状のペースでは達成が難しいと言わざるを得ない状況です。
国としての各種対応を期待しつつも、個人として認知機能が健康な時から生活習慣を整える等、予防に対して意識して取り組むことができるかという点も重要になってきています。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な治療を施すことで、その進行を遅らせられる病気です。
そして、早期発見には定期的に認知機能をチェックすることが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
関連コラム:
【出典】
浅川 澄一. “認知症ケアが「国家戦略」である英国に日本が学ぶべきこと”. DIAMOND ONLINE.2015/09/30
https://diamond.jp/articles/-/79185(2023/2/27)
浅川 澄一. “日本も参考にしたい米国の最新認知症ケア事情”. DIAMOND ONLINE. 2016/07/06
https://diamond.jp/articles/-/94530(2023/2/27)
“認知症の人のテーマパーク!オランダの『ホグウェイ』って?【世界認知症ケア】”.介護のお仕事研究所.2021/03/11
https://fukushi-job.jp/lab/archives/6569(2023/2/27)
厚生労働省.”認知症施策推進大綱について”.厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00002.html(2023/2/27)